わびさび茶飯事

COLUMN
2024.12.13

言葉探し|むき出し

「〇〇へ」という【へ】で終わる言葉、

「うむ〇〇」という【ウム】から始まる言葉

を探してる。あくまでもどっしり構えて、殺気を悟られないように。

血眼になって指先で出会うより、ある日なんともなしに日々の暮らしの中で出会いたい。ひょっこり現れたその言葉に、アタシは運命的なものを感じるのではなかろうか。

これまで見逃していた、あるいは新たに出会うその言葉、その実体を知る日はいつであろうと、記念日にしちゃうゾ!という意気込み付きで。

そもそも

そこに至ったのは、ある飲食店に並んでいた時の友人の一言がきっかけだった。当初の目論見から大きくはずれ、一向に進まぬ大行列の中、

「…しりとりでもする?」

至極真っ当な、アタシ達世代においてほうれい線を刻む以前から胸に刻んできたであろう時間潰しの奥義・しりとりの提案。いつの世もこれがスタンダードなのね、と安心しきったアタシに断る理由なんてなかった。

生きるということは何かと出会うことだ。それは言葉も同じ。毎年いくつもの言葉が生まれるし、アタシ達はそうした出会いを繰り返している。だからこそ歳を重ねた所以のものが出てくるだろうし、歳を重ねたがために溢れてしまった言葉の数々をもう口にすることはないだろう。

ただ、そのままでは捻りがないということで(歳を重ねると何かにつけてスパイスを足したがる)

「しりとらず・あたまとり」を実行することに。

つまりは言葉の頭を次の言葉のお尻にもってくるというもの。

ゲイ茶→はな毛→泰葉→有耶無耶→金髪豚野郎、といった具合に。

そして始まる

紫外線と冷たい風を受けながら、アタシ達のしりとらずは静かに幕をあけた。相手を打ち負かすことより、いかに言の葉のバトンを繋げていくか。共同戦線とも呼べる関係の中で、相手の切り抜けワードを讃え、曖昧な言葉には入念な審査を行った。12月はすっかり寒い。

そこに立ちはだかったのが他でもない「へ」なのだった。一度めはニュージーランドの絶滅危惧種でもある固有種の鳥「タカへ」で乗り切った友人ではあったものの、もはやそれは最後のカードとも言えた。

バウムクーヘン、田舎っぺ….、脳裏に焼きつくのはこんなもの。【へ】で最後に留まろうにもするりと口は通過してしまう。自分が最後を飾るには相応しくないと恐縮してるのか、はたまた決定打を下して責任を回避したいからなのか、【へ】はまったくもって掴みどころがない。

こうして行き詰まったアタシ達は2ラウンド目を開始する。行列は三分の一進んだ。

ラウンド2

今度は語尾の2つの文字を文頭に使う縛りを課して再戦(同じ薬味だけでは物足りなくなってしまうものね)。2つの縛りはもはや道筋が出来たように軽快にやりとりが続いた。

アタシが「リチウム」と口にするまでは。

有無を言わせず、とはまさしくこの状態ではなかろうか。うーむ、とうなるだけで適当な言葉が有るのか無いのか皆目見当がつかず、2人して悩んでいたらいつのまにか暖簾をくぐることが出来た。

1時間半。

言葉遊びに興じながら寒空の下耐えたご褒美天津飯。

柔らかくとろみのある卵に包まれたご飯が喉を通過していく。それまでありとあらゆる言葉を互いに投げつけていたのに、時として言葉は不十分で不必要だ。結局アタシ達は「美味しい」しか口にせず10分足らずで平らげてしまった。

ウム…、一つの答え

帰り際、2人して確認したところ「ウムラウト」という言葉が出てきた。「¨」で表記されるドイツ語の発音と記号。楽譜でも出てくるそうな。

そこにいたのか。ウムを頭に有す言葉よ。

安堵感と同じくらいに、途方もなく広大な世界に立たされている気分になる。

もはや老化としか言い表せない日々の中で、新たな言葉を知った、ただそれだけのことが成長させたかのような錯覚に陥らせる。あるいは異世界に転生したかのような。

まだそんな世界があるのね。

いつもの生活をしてるだけで出会えるかしら。「ウムラウト」も、まだ出会えぬ「ウムなんとか」も。いや、きっとなかなかに難しいんだと思う。

だからもっと、もっと、冒険しなきゃ。

いつもとちょっと違ったものに触れて、飛び出していこう。アタシの2025年への意気込みはそうやって密やかに闘志を燃やしている。

今年出会った言葉

何があったっけ?この時期になると毎年問いただすの。

過去にはアペリティフやシソーラス、カルペディエムなんてのがあってどれも出会った日のことを鮮明に覚えてるんだけど、今年はなんといっても、社会に翻弄されしある動物の名前。でもさすがに長くなっちゃったからこの話はまた別のむき出しで💋

貴方は今年どんな言葉と出会えた?

トトメス

書いた人
トトメスシャカリキ枕(詞)女優

トトメスです。魚の食べ方に定評があります。 頭も食べますし、ヒレも食べます。

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