
〜第一部〜
【入場曲:アヴェ・マリア】
シュン)新郎新婦のご入場です!
一同)拍手
トト子)わ〜新婦さんキレイだねぇ
ジャス)タカシも相変わらずいい男だよな〜
マキオ)……うん、ほんと。タカシ、ついに結婚するんだね
シュン)ぼくたち三人は高校時代の友人同士。トト子とジャスティンとは同じ部活に所属していたんだけど、卒業以来いつしか疎遠になってしまっていた。
あ、ぼくの名前はマキオ。専門学校への進学で上京して以来、ずっと東京で暮らしている。
家族との関係がよくないぼくは信じがたいことに二十年ぶりに地元に帰ってきたのだった。
なぜかって?それは初恋の相手、タカシから結婚式の招待状が届いたからだ。
トト子)てかほんと久しぶりじゃない?三人揃うのは卒業式ぶりだよね
マキオ)あれからもう二十年かぁ……ぼくたち毎日いっしょにいたよね
ジャス)懐かしいね……いろいろあったけどまた集まれてよかった
トト子)私たち、気づけばもうアラフォーだもんね……で、みんな今は何してるの?
マキオ)ぼくは原宿で美容師してるよ
トト子)あ〜マキオ、だからオシャレなんだね!
ジャス)……オレは今もこの街に住んでるよ。実家の工務店継いでる。
マキオ)そうなんだ。ジャスティン、昔からしっかり者だったもんね
トト子)私は大阪に出て、雑誌の編集者やってるんだ
マキオ)え、すごい!なんていう雑誌?
トト子)タチとネコの気持ちっていう雑誌知ってる?
ジャス)それ本家から訴えられない?大丈夫そ?
トト子)で、ふたりはさ、今相手いるの?
ジャス)え、なんだよ急に
マキオ)ぼくは同棲してたんだけど、最近別れたんだよね。家に帰ったら恋人といっしょに家財道具もなくなっててビックリ。
トト子)え、それ刑事事件じゃない?マキオ、波乱万丈ね……
ジャス)オレは年中無休で恋人募集中だけど、田舎だから全然出会いないんだよね。都会に行ったら秒でできるんだけどさ
マキオ)なんかできない理由、そういうところじゃないかな……
トト子)ジャスティンはどういう人がタイプなの?
ジャス)※タイプを羅列する
トト子)私もできない理由わかった気がする……
シュン)会うのは久しぶりだったけれど、話し始めるとぎこちないながらも当時の感覚がよみがえってくる。
みんな住んでいる場所も職業もバラバラ。大人になったぼくたちをつなぐもの、それは同じ時間を過ごしてきたという思い出だけだった。
※背景切り替え
〜第二部(高校時代)〜
シュン)時をさかのぼること二十年前…
トト子)※紀香モノマネでなにかセリフ
ジャス・マキ)※笑う
マキオ)藤原紀香って関西出身なのになんでエセ関西弁っぽいんだろ
シュン)ぼくたちはたった三人の部活、モノマネ研究部、通称モノ研に所属していた。
日々モノマネのレパートリーを増やし、クオリティを上げるための努力を惜しまなかったが、最終学年となった今も一向に後輩が入ってくる気配はなかった。
モノ研の部室、そこはぼくたち三人だけの遊び場、心を許せる場所だった。
トト子)マキオは今さ、好きな人とかいるの?
マキオ)え、すすす好きな人?い、いないよ!ジャスティンは?
ジャス)オレのことはいいから、マキオの好きな人教えろよ〜
マキオ)だからいないってば〜
トト子)ま、無理に言わなくてもいいよ!私はマキオの恋バナ聞いてみたかっただけ
ジャス)あ、やっべ!レポート出すの忘れてた、ちょっと行ってくるわ!
マキオ・トト子)あ、行ってらっしゃ〜ぃ……
※言い淀む様子(息)
マキオ)トト子さー、ほんとにぼくの恋バナ聞きたい?
トト子)うん、私はマキオのこともっと知りたいから聞きたいよ
マキオ)ぼくのこと嫌いにならない?約束してくれる?
トト子)うん、約束する
マキオ)ぼくさ、あのー……なんていうか……
トト子)うん
マキオ)実は……あのね、タカシのこと……好きなんだ
トト子)そうなんだ!タカシ、いいヤツだもんね!
マキオ)え、だからそうじゃなくて……今、男子のこと好きって言ったんだけど?
トト子)うん、私気づいてた
マキオ)え、なんで?知ってたの?!
トト子)マキオのこといつも近くで見てるからそりゃわかるよ
マキオ)そっか、そっとしておいてくれたんだね
トト子)私はそんなマキオが大好きでいっしょにいるってこと忘れないでね
マキオ)(泣きそうになって)……うん、トト子、ありがと
シュン)こうしてぼくは予期せぬタイミングでトト子にだけ人生初のカミングアウトをしたのだった。
ま、予想していた反応とは違ったものの、ぼくたちの絆が深まったことだけは確かだ。
そして、なんとなくジャスティンにはカミングアウトをしそびれたまま日々が流れていった。
タカシ)マ〜キオッ!(花男風に)
マキオ)もうなんなの〜タカシのそのギャグ、誰も笑ってないから〜
タカシ)マキオー、放課後ヒマ?波乗りジョニー歌いに行こうぜ〜
マキオ)えーカラオケー?まぁいいけど
シュン)うれしかった。タカシが誘ってくれているならいつだってヒマって答えるし、行きたくないところにでも行く。
クラスの男子から浮いてしまっているぼくにタカシは唯一分け隔てなく接してくれた。
タカシ)お前、またコンビニパンだけかよ。ほら、母ちゃんの作ったナポリタン味の唐揚げも食えよ
マキオ)え、いいの?タカシって、本当に性格いいよね
タカシ)性格だけか?顔もだろ?
マキオ)か、顔?!思ってるほどかっこよくないから!
タカシ)そうか?けっこう女子にはモテるんだけど。ま、オレはマキオが一番だけどな!
マキオ)ちょ、ちょ、なにがだよっ!からわないでよ!
シュン)もしかして、タカシもぼくのこと……いや、そんなわけがない。
人気者のノンケが冴えないぼくをただからかっているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
そんなことわかりきってる。でももし、タカシもゲイでぼくのことが好きだったら……。
あるはずもないそんな妄想をしては一喜一憂するそんな日々が過ぎていった。
マキオ)タカシがぼくのこと友達としてしか見ていないことはわかってるんだよ。ぼくなんかのことを好きになるはずがないし……
トト子)そんなのわかんなくない?って言いたいけどさ、怖いよね。私だったら気持ちを伝えた瞬間、今までの関係が崩れたらって思っちゃう
マキオ)いっしょにいるとさ、幸せなんだよね。でも、それと同時に苦しい。手に入らないものがずっと手に届きそうなところにあるんだもん
トト子)私はね、付き合うかどうかよりも、マキオがタカシとどんな時間を共有したいかが大事だと思うんだよね。
今のマキオとタカシの関係性でも十分素敵だけどな
マキオ)いや、ぼくはできるなら付き合いたいよ?笑 でもーわかる気がするな。
どんな形でも好きな人のそばに毎日いられるのって、きっと……いつかいい思い出になる気がする
タカシ)あ、ここにいた。マキオ、いっしょに帰ろうぜー
マキオ)あ、うん!じゃあね、トト子
トト子)また明日ね〜
シュン)タカシはサッカー部だったが、同じ方面ということもあって、いっしょに帰ることが多かった。
タカシ)くぅー!部活帰りのコーラは最高っ!
マキオ)何それー、おっさんくださいんだけど
タカシ)別にいいじゃん。俺たち、おっさん同士になっても、付き合っていたいなー
マキオ)え……(赤面)付き合う?じゃぼくが彼女になってあげようか?
タカシ)でもマキオは彼女より奥さんって感じだなー
マキオ)まータカシの奥さんなら悪くないかも。お互い独身だったら結婚しちゃう?
タカシ)お、言ったな?約束だぞ
マキオ)……うん、タカシこそね!
タカシ)まぁでも実際、大人になったら、お互いどんな奥さんと子どもがいるんだろうな
マキオ)あっ……そうだよね……
タカシ)てかさ、マキオはどんな女子がタイプなの?
マキオ)えっ……
シュン)「タイプはタカシだよ。冗談じゃなくて、あなたと家族になりたいんです」……そう言えたらどれだけよかっただろう。
でもそんな未来は絶対に訪れはしない。心の底では、わかりきっていたことなのに。
タカシから放たれるやさしい言葉の数々は、彼にとって冗談にすぎない。その事実がぼくの心に深く突き刺さっていた。
ぼくはこれ以上傷つかないように、タカシへの気持ちを心の奥底にしまい込んで、何重にも鍵をかけて二度と出てくることがないようにした。
【挿入歌:Monologue】
※背景切り替え
〜第三部〜
シュン)同級生のスピーチを聞いてるうちに、高校時代の記憶が呼び起こされ、走馬灯のように駆け抜けていった。
そんなぼくをじっと見つめてくるジャスティンと目があった。
ジャス)あのさ、マキオ。オレ、マキオにずっと言えなかったことがあるんだ
マキオ)え?なに?
ジャス)実は、オレ、ゲイなんだ
マキオ)え?ジャスティンが?
ジャス)高校の時に、トト子には相談してたんだけど、田舎だし、跡取り息子ってこともあって、あの時は男らしく振る舞わなきゃって、自分を偽ってたんだよね
マキオ)そう……だったんだ。ジャスティン、苦しかっただろね
あのさ……実は、僕もゲイなん……
ジャス)(さえぎって)うん、ずっと気づいた。バレバレだったよ
マキオ)え……そんな
トト子)二人とも、やっと言ったねー。お互い言っちゃえばいいのにって思ってたから
(藤原紀香風に)ほんまにけったいな二人やで
シュン)二十年越しに、やっとお互いに隠してきたことを言えた。
あの時、自分と同じような思いをしている人なんて、周りに一人もいないだろうって思っていたけど、そんなことはなくて、自分が知らないだけだったんだ。
久しぶりの再会ということも忘れて、モノ研の部室にいるような感覚に浸りながら、次々に話に花が咲いた。
※背景切り替え
新郎母)みなさん今日は来ていただいてありがとうございます〜
三人)タカシくんのお母さん!(バラバラでOK)
※背景切り替え
タカシ)よ!みんな久しぶり!今日は来てくれてありがとな!
シュン)タカシだ。ぼくの初恋の人、実らなかった片思いの相手、そのタカシがそこに立っていた。
マキオ)あ、タカシー!
トト子)おめでとう〜!
ジャス)いい結婚式だね!
タカシ)おう!ありがとう
マキオ)タカシ、ぼくと結婚するって言ってたのに約束破ったな〜
タカシ)オレはずっと待ってたんだぞ。マキオにはフラれたと思ってたよ
シュン)タカシはずっとタカシだった。ぼくたちの関係性は変わらずにいた。
タカシ、素敵なままでいてくれてありがとう。君は今でも、いやこれからもずっとぼくの特別な人だよ。
トト子)やっぱタカシっていいヤツだよね
マキオ)うん、全然変わんないよね
トト子)なにしんみりしてんのよ
ジャス)……あーオレも結婚式しようかな
マキオ)え!?ジャスティン、誰かいい人がいるの?
ジャス)え?結婚式って一人でできないの?
トト子)まずはあなた、お相手を探すところからよね。でも、最近、男同士でも結婚式あげられるじゃない?
マキオ)それはそうだけど、本当の意味で、ここにいる人たちみたいに心の底から祝ってくれる人がどれだけいるのかなって、思っちゃうよね
ジャス)オレはさ、結婚式に来ると、つい自分の両親の顔を思い浮かべて切なくなる
きっとオレも母さんも喜びとか、寂しさとか、やるせなさとか色々な感情が沸き起こって泣くと思うんだ
マキオ)でもぼくたちって、結婚式しなくても幸せじゃない?
自分のことを大切にしてくれる人は、結婚相手という形じゃなくてもちゃんといるからさ
ジャス)だから心配しないで、安心してねって言える場が結婚式じゃなくてもあったらいいよね
トト子)そうねぇ……結婚式で両家や友人たちに「私たち結婚しまーす!お祝いしてね!」って言えるのって当たり前じゃないわよね
マキオ)普段はこんなこと考えないから、結婚式ってぼくらにとってのパンドラの箱って感じ。押し込めていた、色んな感情が出てくる
シュン)結婚して、子供がいて、いつか孫ができて、家族に囲まれて生きる、そんな「昔から語り継がれてきた幸せの形」を、
自分がノンケだったら手に入れられていたのかな。
でも、今は今の自分でいいと思っている。パートナーがいてもいなくても、誰かを好きになってもならなくても、幸せの形は人それぞれだって胸を張って言える。
誰かのものさしで、決められるものじゃないもの。
あのとき今もいろんな思いはあるけれど、それでもぼくを認めていきたい。
だから心から言うよ。タカシ、結婚おめでとう。
トト子)ねぇ、引き出物みた?
マキオ)え?もう開けてるの?
トト子)だって、私たちご祝儀払ってばっかりいるのよ。ある意味、引き出物って、私たちが買っているようなところあるでしょ?
ジャス)で、なんだったの?
トト子)見て、これ
マキオ)まだ現存してたんだ……新郎新婦の写真のペアカップ!
ジャス)オレたちこれ買ったんだよな
マキオ)なんかぼく一周回って好感持てるかも
トト子)使う度に今日のこと思い出して元気出そう
※一同控えめに笑う
シュン)ぞろぞろと二次会に向かう参列者たちを横目に見ながら、ぼくたちはなんとなく立ち上がれずにいた。
きっと明日からもまた変わり映えのしない毎日が続くんだけど、ぼくの見る世界は少しだけ色づいたような気がする
それぞれちがう場所でそれぞれちがう悩みを抱えて、我慢したり言い訳したり甘やかしたりしながらがんばってる。
そう思うと、みんな一人じゃない、ぼくも前に進もうって思えるから不思議だ。
ずっと遠ざけていた地元に帰ってきて、こんな気持ちになれるだなんて思わなかった。
トト子)……なんかよかったよね
ジャス)ひさびさに本音でしゃべった気がする
マキオ)ぼくもみんなに会えてよかった
ジャス)なぁ、二人は二次会行く?
マキオ)申し込んじゃったけど、どうしようかなぁ……
トト子)ブッチしちゃう?
ジャス)古っ!死語だよそれ
マキオ)じゃあさ、このあとお茶しよ!
【エンディング曲:Epilogue】

- 書いた人
- マッキー恋するファッショニスタ
ファッション好きでとにかくおしゃべり、都内在住、アラフォーゲイ。ゲイ茶の中では恋愛担当かつ癒し系枠。
ここだけの話、実はあの人気BL作家「藍内蒼馬」という噂。
ほかに「マッキーの\ちょっと聴いてよ〜/」というひとり番組も配信中。
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