一富士二鷹三茄子。ご存知の通り、初夢で見ると縁起がいいと言われているものだ。(茄子は“成す”ということで良いらしいが、茄子ならどんな形でもいいの?煮浸しでも可?)
先月末、人生初の富士登山をした。
きっかけは年始ごろ、詳細は忘れてしまったのだが、今年の7月までに富士山に登れ的な夢を見たのだ。私にしては珍しく素直に、カレンダーアプリに7月末「富士登山」の予定を入れた。
それから登山をする友人と(たった)2山ほど登り、予定通り富士登山に挑むこととなった。(言い訳になるが、1回目の高尾山は悪天候、山頂は雪、雨具はセブンのカッパという舐めた装備で地獄みたいな思い出が出来上がり、登山に対しおよび腰だった)
富士山といえばご来光だろうということで、山小屋泊ガイド付きツアーに申し込んだ。
ツアーの日程を確認する限り、15時頃から登り始め、山小屋泊を挟みつつ翌朝11時には下山し、近くの銭湯に入っているスケジュールとなっていた。
謳い文句は「初心者におすすめ!」だし、「昼前には銭湯」というスケジュール感が私の心の隙にすんなりと入り「意外と楽勝かも」とどこか楽観視すらしていた。
新宿からバスに揺られスタート地点の五合目へ到着。
少し前に富士登山での死亡事故のニュースが耳に入っていた私は、ここへきて少しナーバスになり始めていた。インスタのストーリーには、これから登る浮かれ姿の写真に「ここで人生が終わりませんように」と冗談めかしたがほとんど本気のキャプションもつけて投稿した。
ガイドさんが雄弁に登山に関するあれこれを話してくださりながら、まだ和気藹々とした雰囲気で歩いている、出発からほんの20分頃のこと。最初の脱落者が出た。女性二人組だったのだがどうも高山病っぽいようで、体調に不安があり、そこからグループを離れご自身たちのペースで山小屋へと向かうこととなった。
一行の不安を煽るかのように、怪しくなる雲行き。「次は私かもしれない。」誰も口にはしないが緊張感が走る。
火山ということを実感するゴツゴツとした道を登り、最初の山小屋が見えてきた。今夜私たちが泊まるところだ。2段ベッドのようなスペースに寝袋が敷き詰められ、その一つが自分の寝床となる。
時刻は18時。夕食を済ませ(牛丼)そこから出発まで寝ることになるのだが、与えられた時間は2時間。え、山小屋泊ってゆうか仮眠、山小屋仮眠じゃん。と声にならない想いを抱き、とにかく2時間後に備え瞼を閉じた。
場所が変わると寝れない界隈の私は、「じっとした」だけの2時間を過ごし再び登山に戻った。
のちに知るのだが、この山小屋は一番手前であり、ということは山頂までが一番長い休憩ポイントなのであった。(これから登る人は何が何でも八合目の宿をとって。絶対だよ。)
ここからは「山頂は寒い」と字面で理解していた意味を体で実感することとなる。
もはやボルタリングじゃ?となるような岩場があったり、とにかく「初心者におすすめ!」って書いたの誰?って叫びたくなるような険しい道が続いた。
酸素はどんどん薄くなり呼吸もどこか苦しく、夜の暗さは深みを増し、足元を照らすヘッドライトの光はなんとも心細い。
遠く見える街の灯を見ながら、富士登山をしていない、金夜をわいわい過ごすパラレル世界に想いを馳せる。これってもうほとんど後悔の域だ。
以前、敬愛する振り付け演出家のMIKIKO先生がインタビューで大変な仕事へ向かう時はどうしていますか?という質問に「やれば終わる。そのことだけを考える」というような趣旨のことをおっしゃっていた。見上げれば頂上までまだこんなにあるという絶望下の中、そうだ、それでも登れば終わるんだという事実だけを手綱に、とにかく私は目の前の岩場を登った。
山頂は日の出を待つ多くの人で溢れていた。
こんなところにも山小屋があることにも驚いたが、私たちはそこで休憩をさせてもらえることとなった。食事のメニューもいくつかあったのだが「カップヌードル」その言葉だけが私を捕らえて放さなかった。
汁まで飲み干し、メインイベントのご来光を待つため外に出る。
寒さがピークとなり、正直私の中にご来光が見たい気持ちは確実に存在感を失っていた。
四時過ぎ、次第に空は白んで山頂からの景色が映し出されていく。
周りの山々には雲がかかり、零れたような湖が広がって、その全てが目下に広がる様は圧巻であった。今、自分がとんでもなく高い場所にいることがここへ来てやっとわかったのだ。
これまでの苦労が全て吹き飛んで晴々しい気持ちになりました!なんてドラマティックな展開は一切ないものの、無事ご来光を拝んだ安心感で下山の途に着く。
私、下山の才能あるかもと思うくらい帰りの道と相性がよく、すいすい降りられた。
しかもずっと眺めが良くて、行きの辛さはこの景色が夜で見えないせいもあるなと思った。
そして友人と共に無事下山。地上の全てが愛おしい時間となった。
安室奈美恵の「Chase the Chance」という曲をご存じだろうか。
歌詞に「夢なんて見るモンじゃない 語るモンじゃない 叶えるものだから」という一節がある。
登山中、私の頭の中にはこの曲のメロディーそのままに「富士山なんて登るモンじゃない 眺めるものだから」というフレーズがリフレインしていた。
そう。大切なことは、大体なみえが既に教えていてくれている。やはりうちらのリーダーえいえんなみえなのだ。
それじゃまた!