わびさび茶飯事

LOVE
2024.10.15

【脚本】NE1POかっぴー×マッキーコラボ回ラジオドラマ「愛と憎悪の果てに」

か) 私の名前は西園寺涼子。27歳。
 親は言わずと知れた西園寺グループの会長。私もその一つであるモデルエージェンシーの経営を任されている。
 と言ってもお飾り社長のようなもので、実情は日がな一日エステやピラティスなど自己投資に明け暮れている。
 親からは度々結婚しろと言われていて、渋々お見合いをしているもののまだ結婚する気は到底起きそうにもない。

 今日のお見合いもハズレだった。
 相手は少し年上の外科医で、家柄も申し分なかった。顔はそこそこだけど高身長でスタイルもよく、やさしそうな人。
 でもただそれだけのつまらなさそうな男だった。
 きっと世の中の女子からはちやほやされているんだろうと思わせる自信に満ちた微笑み。
 でもその笑顔で満足させられるほど、私は簡単な女じゃない。

 そんなことを考えながら歩いていると、ふと懐かしい声がした。

マ)「あ、涼子じゃない?ひさしぶり〜」
か)「え、もしかして麻里?元気だった?」

か)東條麻里。まさかここで再会するなんて。
 彼女は大学時代の同級生だった。麻里は大した家柄でもなく、本来話すことさえないような接点のない女だった。
 それが憎しみへと変わったのは、忘れもしないミスコンのとき。
 麻里は私より長身で、スタイルが良かった。ただ華がなく、女性としての気品やオーラなどがまるでない。
 前評判でもミスコンの優勝は私だと噂されていて、ライバルとして見ることすらなかった。
 それなのに、あの女が優勝したのだ。美を競うコンテストで麻里はあろうことか一発芸を披露し、それで会場を味方につけて優勝した。
 私の輝かしい経歴に一点のくもりをもたらした女、それが麻里だった。

シュ)「お友達かい?はじめまして、麻里の旦那の翔です」

か)時が止まった。この人だ、彼が私の運命の人だ。心がそう告げていた。
 きれいに整えられたミディアムヘアーに、優しそうな瞳、高く通った鼻筋、ずっと開いている口。
 私は彼から目が離せなくなっていた。

シュ)「……涼子、さん?どうしました?」
か)「ご、ごめんなさい。ちょっとめまいが……」
マ)「今日暑いからね。無理しないで」
シュ)「よろしければそこに車を停めているので送っていきましょうか」
か)「……そうね、お言葉に甘えてそうさせていただこうかしら」
マ)「私も付き添いたいところなんだけど、このあと母のところに行かなくてはいけなくて。翔、あとはお願いしてもいいかしら?」
シュ)「うん、任せておいて」

か)今私を支えて歩いてくれている男性。頭ではあの忌まわしき麻里の夫だということはわかっている。
 でもこの気持ちはもう誰にも止められなかった。少しでも長くこの人と体を寄せ合っていたい。
 かすかに薫るムスクの香りと男性ホルモンの入り混じったこの匂いにずっと包まれていたい。私はただそう願った。
 しかし残酷な運命は私たちをそのままにはしてくれなかった。

シュ)「涼子さん、着きましたよ」
か)「あ、ありがとうございます」
シュ)「後ろで横になられますか?」
か)「いえ、助手席でけっこうです」

か)翔はどこまでも完璧だった。全てにおいてこれまでお見合いをしてきた男たちとは一線を画していた。
 眉目秀麗(びもくしゅうれい)なだけでなく、気遣いができ、色気をも感じさせる。
 彼の発する一言一言が私を内側から震わせるようだった。
 
 ドライブ中に話していた内容から、いくつか彼のことがわかってきた。
 彼の生家は決して裕福ではなかったこと、自身で経営を学び今では飲食店を数店保有する経営者であること、スポーツが趣味で週末には仲間とサッカーを楽しんでいること、子どもはまだいないこと。
 なぜだか私たちは示し合わせたかのように麻里のことは一切話題に出さなかった。そして、車はあっという間に私の家の前に着いていた。

か)「はぁ〜……麻里は幸せ者だな」
シュ)「どうしたんですか?急に」
か)「こんなに素敵な旦那さんがいて、うらやましいな。私なんてお見合いばかりでうまくいかないし。イヤになっちゃう」
シュ)「え、涼子さん、独身だったんですね!すごくお綺麗だから、もう素敵な方がいるとばかり……」
か)「あら、お世辞がお上手ですこと。誰か私をもらってくれないかしら」
シュ)「そんな……きっとおモテになるでしょうに」
か)「あ、そうだ。今度お礼をさせてくださらない?」
シュ)「お、お礼だなんて。そんな大したことしてませんから」
か)「私がしたいんです。おイヤでなければ、こちらに電話してきて。麻里には内緒で……チュッ」

か)慌てふためく翔の頬に口づけをし、助手席に名刺を置いて私は車外に出た。
 多くは語らない。これ以上の会話は野暮というもの。
 私は会釈だけして、エントランスへと向かった。

 他の多くの男たちがそうしてきたように翔から1時間もしないうちに電話がかかってきた。
 彼にすぐにでも会いたい気持ちを抑えて、私たちは日曜日のランチの約束をした。

 翔との電話を終えてすぐ、私は麻里に電話をした。
 
か)「麻里?今日はひさしぶりだったのに、私ったらごめんなさい」
マ)「そんなこといいのよ。どう?もう体調は大丈夫なの?」
か)「ええ、おかげさまで。少し休んだらよくなったわ」
マ)「いきなり翔と二人にしてなんだかごめんなさいね。あの人どこか抜けてるでしょ?」
か)「そう?やさしくて素敵な旦那さんね。私も翔さんみたいな人と結婚したいな……」
マ)「え、ほんと?涼子ならどこかの財閥の御曹司の一人や二人、キープしているでしょ?」
か)「そんなことないわよ〜。選り好みしていると婚期を逃しそうで焦っているところ」
マ)「ねぇ、翔から涼子がモデル事務所をやっていると聞いたんだけど、私でもできる仕事ないかしら?」
か)「え、モデルの仕事興味あるの?麻里ならビジュアルいいからお仕事紹介できるわよ。一度事務所に遊びにきて」
マ)「え、ほんと?!じゃまた候補日連絡するね!ありがとう、涼子!」

か)ほんと変わってない。麻里ってこういうところが俗っぽいのよね。
 まぁでも翔との関係性を深めていく上で、麻里は欠かせないパーツ。ここでモデル仕事の恩を売っておかない手はないわ。

 そして待ちに待った日曜日。
 翔に車で迎えにきてもらい、私の行きつけの麻布にあるフランス料理店へとやってきた。
 今日の彼は白のリネンシャツに仕立てのいいネイビーのスラックス、茶色のローファーというシンプルだが品の良さが伺えるスタイル。
 そして程よく開いた胸元は遠目で見てもわかるぐらいしっかりと隆起しており、それを太陽の下で見ただけで私の心臓は大きく跳ね上がるのだった。
 コース料理がひと段落した頃、唐突に言った。

か)「ねぇ、翔さん。私と麻里、どっちがタイプ?」
シュ)(むせる音)「え、涼子さん?それって……どういうことですか?」
か)「ふふ……動揺しているってことはそういうことよね。立場もあるでしょうから答えなくていいわ」
シュ)「ん……涼子さんにそんなことを言われると困ってしまうな」
か)「甘いデザートはお好きかしら?このあとどこか連れて行ってくださる?……ふふ」
シュ)「涼子さん……ぼくたち引き返せなくなりますよ?」

……つづく?

書いた人
マッキー恋するファッショニスタ

ファッション好きでとにかくおしゃべり、都内在住、アラフォーゲイ。ゲイ茶の中では恋愛担当かつ癒し系枠。 ここだけの話、実はあの人気BL作家「藍内蒼馬」という噂。 ほかに「マッキーの\ちょっと聴いてよ〜/」というひとり番組も配信中。
https://lit.link/mackypodcast

SHARE

POPULAR人気の記事

TAGいろんなタグ